君と、2人なら。
薔薇が咲き乱れている、この美しい庭園は少年の所有物だ。
この家も、使用人たちも、何もかも。
この一帯にあるものは全て少年のものだ。
まだ15歳の少年であるウルは、"神子"として世界に名を轟かせている。
金色の髪に、藍と碧のオッドアイ。
体格は人並み、顔立ちは人よりもはるかに整っている。
"神子"として生まれ、その容姿により"天使"と呼ばれる事もあるほどだ。
「貴方は、だれ?」
夜の庭で散歩中、ばったり出逢った少女の言葉にウルは自分の耳を疑った。
この世界で自分のことを知らない人間など居ない、そう思い込んでいたから。
少女の髪は紅く真っ直ぐで、肩口の所で切りそろえてある。
大きくて丸い瞳に宿す色は黒く、
背丈はウルより頭一つ分以上に小さい、華奢という印象を受ける少女。
飛び切り美しい、とは言えないがとても愛らしい少女だった。
そんなウルの様子に気付いたのか、少女は首を傾げながらもう一度口を開いた。
「だれなの?なんでここに居るの?」
ウルに少女の疑問に答える力はなかった。
自分自身、その疑問の答えを知らないからだ。
誰なのかと訊かれたら、自分の名前を言えばいい。
なぜ此処に居るかを問われたら、ここは自分の家だと言えばいい。
けれど、少女はそんな事を訊いているのではない、そう思った。
「しゃべれないわけじゃないでしょ?ねぇ、聞いてる?」
じゃあ、この目の前にいる少女は何が訊きたいのか。
ウルが頭の中でぐるぐると考える中、少女は問いかけ続けた。
聞こえている、こっちはその答えを出そうとしているというのに。
「五月蝿いなぁっ!!」
叫んでからしまった、と思った。
ウルの知っている人間は"五月蝿い"と言うと、胡散臭い笑顔をより一層深めて、
"申し訳ございません"と謝ってくる。
ウルは、それがこの上なく嫌いだった。
当然少女もそう謝ってくるだろうと思って、少し身構えた。
だが、それは意味のない事だったと知る。
「・・・・ごめん」
少女が本当に申し訳なさそうに、項垂れて言ったからだ。
「あたしね、いつもいつも注意されてるの。もうちょっと静かになさい・・・・って
なのにうるさかったね、ごめん」
「あ・・・・・・・僕も、いきなり怒鳴って、ごめん。その、いっぺんに言うのだけは、やめてくれる?」
少女の態度に、少し驚いた。
だからウルは少女と少し、話をしたいと思ったのだ。
少女を見ると、にっこりと屈託のない笑顔になっている。
「君・・・・は?」
「あたしの名前はレイアっていうの。ね、貴方は?どうしてここにいるのか教えてくれる?」
「ウル様が特別だから、ですよ」
後ろから掛けられたその冷ややかな言葉に、ウルの肩が強張った。
ウルが恐る恐る、振り返る。
「やれやれ、此処は立ち入り禁止ですよ、お嬢さん」
そこに居たのはウルの予想通りの人物だ。
長い黒髪を後ろで一つに縛り、青い色をした眼には眼鏡が掛けられている。
背丈はウルよりも20cmを超えるだろう。
にっこり、笑っている。
だがウルは知っている。その笑みは表面上のものだと。
レイアでさえも気付いたのだろう。
先程までの明るさは何処に行ったのかと思うくらい、怯えている。
「まって、ソエル!この子は悪くないよ!迷っただけなんだ!!」
「迷った・・・・ねぇ。この一帯には結界が張ってあります、そんなわけないでしょう」
ウルの弁護も虚しく、ソエルと呼ばれた青年の瞳がより一層冷たく細められた。
レイアはもう泣きそうな顔になっている。
やばい、と思った。
このままじゃまずい、と。
そうだ、ソエルはとても残酷で冷徹な人間だ。
怒られる、つまみ出されるくらいならまだ良い。
だがそれくらいで終わるわけがない、そんな人間なのだ。
「こっち、走って!!」
ウルの出した結論は、共に逃げるという事。
少女は泣きそうになりながらも、少年の手を取って走った。
手に手をとって 行く先は闇
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