例えここが小さな国だとしても、姫は姫。
例え上に兄や姉がたくさん居ても、姫は姫。

大人しくしてもらえないと大変なのは俺達のほうなんです。


今日もまた、廊下に響く軽快な音。
少しウェーブのかかった綺麗な金髪が風に翻る。
そう、走っている。
いつもの様に周りの者の声を無視し、彼女は走っているのだ。
・・・・何度、俺達が注意したことか。

アメリア・プリムヴェール。
この小さな国の、小さなお姫様。
この小さな離宮の主でもある。

「姫様、廊下は走らぬよう申し上げましたでしょう!?」
「急いでるの、止めないで頂戴!」
「姫様、作法のお稽古がまだ終わっておりません!お部屋にお戻りを!」
「私、作法は完璧ですもの!」
「姫様、姉姫様に何をなさったのですか?とても怒っておられましたわ!」
「何もしていないわ、あの人が勝手に怒ってるだけよ!」

いつもの姫様の行動に、侍女たちがいつもの文句を言う。
そして返される姫様の言葉も、いつもと同じ。
姫様は毎日のように作法の稽古を脱走、そして逃亡した後、姉君の離宮に行く。
そして何かしら問題を起こしてこの離宮に連れ戻されるのだ。
何故、そんなことをするのか。
それは俺達にはさっぱりわからない。
姉君とは険悪である。
一方的に嫌われているわけではない。
姫様自身も、姉君のことを嫌っているのだ。
まあ本当のことを言うと、姉君は姫様を元から嫌っていたわけではない。
ここ数年・・・そう、姫様のこの習慣が出来てしまってからだ。
そしてこの後の展開もいつもどおりで簡単に予想がつく。

「近衛騎士の方々は何故姫様を止めてくれないんですか!」

・・・・ほぅら、来た。
ちなみに止めないのではない、止められないのだ。
最初は努力した、していた。
だが、無理だったのだ。
如何せん、姫様は小さいためか素早く、小回りが利くのだ。
最近ではもう行き先が分かりきっているためか、誰も捕まえようとまではしない。

「リオン・アヴリル!!」

そして俺が名指しされる、いつもの様に。
何故、俺だけが。
そう毎日思うが、致し方ない。
なんせ、俺は、

「この近衛騎士たちの勤務態度は何事ですか!姫様を止めてくださいまし!」

この離宮では姫様の次に偉いから、だ。
あれだ、そう。
近衛騎士を纏めている。
けれども姫様同様、そんなこと関係なく侍女たちは言ってくる。
この離宮の素晴らしいところは、こういうところにあると思っている。

「(止めろったって・・・・・止められたら苦労しない)・・・姫様!」

そう言われて止めようと頑張って止められた記憶が無い。
毎度毎度、同じようなことを繰り返している。
だからこの先の展開も分かってしまう。
結局止められず、姫様は姉君に対し悪戯をし、俺と姫様は怒られるのだ。
こっぴどく、侍女に。
だが、今日はまったく別の展開になってしまった。

「えっと・・・・・姫、様?」

容易く捕まえることができたのだ。
否、寧ろ今のは姫様から俺の腕に飛び込んできたような。
止めろと言った侍女達でさえ驚いている。
それはそうだ。
彼女達も口では毎回同じ文句を言いながら、無駄だと思っていたからだ。

「今日は、」
「居なくならない?」

どうしたのか、そう問いかけようとしたら逆に姫様に問いかけられた。
居なくならない?
いつもと違う、不安そうな顔で、
いつもと違く、俺の眼を見ないでいった言葉。

「大丈夫ですよ」
「・・・・・・ホント?嘘じゃない?」
「どこまでも、お供いたします」

そう笑って言った時の、姫様の笑顔は
俺の命に換えても、護りたいと思っているものでした。







何があっても護ります

( 例えそれが、悪夢からだとしても )