私には、幼い頃の記憶がない。 本当に幼い頃の記憶。 まだ自分が、恐らくは・・・・4才くらいまでの記憶。 自分が思い出せないだけであって、その記憶が 忘れ去ってしまったとか、消え去ってしまったワケではない。 だって、本当に脳の片隅にもないのなら・・・・ こんな覚えていないことに"懐かしい"なんて感じるわけないもの。 太陽の色、天空の色、それらがキラキラして輝く世界。 これはよく見る夢だ。 ただ、これらの色がキラキラしていて大好きだった・・・・・と、思う。 これが本当に太陽の色なのか、天空の色なのか・・・それは分からない。 もしかしたら動物だったのかもしれないし、絵かもしれない。 さらに言うと、人だった可能性もある。 覚えているのは、何もない。 幼い自分はきっと好きだったんだろう、そう思い込んでるだけだ。

ひょんな事から外の世界に出て、逃げながらの旅を続けた。 教団につかまってはいけない。その思いだけで、見たこともない世界を、独りで。 記憶を失ってからの17年、私は教団に保護されていたのに? ずっとずっと面倒を見てくれていた教団を信じることが出来ないの? 自問自答を繰り返し、辿り着いた答えがある。 これは外に出なかったら絶対に出なかった答えだ。 おかしいんだ。 17年もの間、あの部屋に独りでいたのは、おかしいことなんだ。 戦災孤児なら普通に孤児院にいけばいい。 あの白い部屋に閉じ込められて、外を知らずに育った私はおかしいんだ。 何か理由がある。 私が"大切"なのか"畏怖"されていたのかは分からないけど、 とにかく私には何か人とは違うことがあるんだ。

「・・・・・・せめて、出自が分かればなぁ・・・・・」

記憶が無い、このことをこんなにももどかしく思ったことは初めてだ。 自分が人と違うところ、そんなのは背中にある、大きな傷痕くらいだと思う。 気付いた時には既にあった、背中の傷。 とうの昔に塞がり、もう痛みも何もない、ただ痕が残ってしまった傷。 これが何か関係しているのか、否か。 まったくもって見当もつかない。

「ひゃっ!!」

考え事をしながら歩いていた所為か、小さな段差に気付かず転びそうになる。 いつもならやらない失態。次に痛みが来る、 そう思って眼を強く瞑るが、いつまでたっても衝撃は来ない。 何でだろう、そう思うと腕に違和感があることに気付いた。 後ろから誰かに掴まれてる。 ・・・・と、いうよりは誰かが掴んでくれた? お礼を言おうと、後ろに居る恩人の方を振り向く。 時が一瞬、止まった気がした。

「大丈夫か?」

太陽色の髪に、天空の色を映す瞳。 本当に最初から記憶が無いなら、 初対面のこの人に対してこんなにも・・・・逢いたかったなんて、思うわけ、ないもの。






癒えた傷 消せない記憶



← Back